教養フォーラム

 

  文学部教授 日比野 正明

【プロフィール】
通信教育では「国際関係論」,夏期スクーリングでは「国際時事問題」を担当。1959〜91年NHK勤務後現職。著書に『現代の国際関係とマス・メディア』,『時事問題入門』,いずれも玉川大学出版部から刊行。翻訳に『国際援助の限界』(朝日新聞社)などがある。

国際問題をわかりやすく解説する (1)

 アメリカ編

今月から3回にわたって国際問題の中から現在アメリカ,ヨーロッパ,アジアで起こっている問題を取り上げ,基礎からわかりやすく解説し,日本との関わりについても説明していきたいと思います。
 世界各地で起こっているニュースは,テレビやインターネットなどを通じて一瞬のうちに世界のすみずみにまで伝えられています。例えば,1996年から97年にかけて起こったペルーの日本大使公邸人質事件で特殊部隊の突入や人質解放の模様は,通信衛星を通じてテレビの生中継で同時進行で見ることができましたし,昨年明らかになったアメリカのクリントン大統領の不倫問題でスター独立検察官が議会へ提出した捜査報告書は,公表されると同時にインターネットを通じて見ることができました。まさに情報・通信のグローバル化が進んでいます。こうしたニュースは,その背景や基礎的な事柄を知っているとより深く問題を理解できるのです。

世界的な注目をあびるアメリカの大統領

 今月はアメリカの政治の動きについて解説しましょう。
 アメリカの政治の中で,最も注目をあびるのは大統領の発言や行動です。それは,アメリカが世界で唯一の超大国であると同時にアメリカの大統領が大きな権限をもっているからです。第2次世界大戦が終わったあと,冷戦の時代が40年余り続き,アメリカとソ連の二つの超大国がそれぞれ東西の陣営を率いて対立していましたが,1989年にその冷戦が終結し,91年にはソ連が消滅してしまいました。今やアメリカは軍事力,経済力,政治力などの面で圧倒的な強さを誇っています。また,アメリカの大統領は,14の省庁などの行政部のトップ,外交のトップ,そして軍のトップの地位を占めているほか,政権を握っている政党の党首の役割を果たしており,アメリカ国民の統合の象徴でもあるのです。
 現在のクリントン大統領は,第42代のアメリカの大統領で,南部のアーカンソー州知事から1992年の大統領選挙で民主党の大統領候補になり,共和党の候補で現職のブッシュ大統領や無所属でテキサスの実業家のペロー氏を破って当選しました。クリントン大統領は,93年に就任し96年に再選され97年から2期目に入り,この1月20日で大統領就任まる6年になります。アメリカの憲法では,大統領の任期を1期4年で2期8年までとし3選を禁じていますので,クリントン大統領の任期はあと2年ということになります。クリントン大統領は,92年の大統領選挙の時州知事時代の不倫問題が取り上げられましたが,昨年はホワイトハウスの実習生だったモニカ・ルインスキーさんとの関係が取り沙汰されました。大統領への疑惑は,ルインスキーさんとの不倫を隠そうとして偽証したり,ルインスキーさんに偽証するよう働きかけて司法妨害をしたのではないかという刑事訴訟法上の問題です。大統領は,ルインスキーさんと「不適切な関係」があったことは認めたものの,偽証や偽証教唆などについては否定しました。アメリカの政局は昨年1年間この不倫問題に振り回された感があります。アメリカのテレビ,新聞,週刊誌などのメディアは,不倫問題に関する動きを逐一大々的に伝えましたし,外国のメディアもかなり大きく伝えました。

議会,メディア,世論の動向

 アメリカの議会では,現在共和党が上下両院で過半数を占めていますので大統領を弾劾すべきだという意見がでて,下院本会議で弾劾調査開始が決議され調査が行われました。
 これに関連してアメリカの政治制度について説明しますと,その特徴は,大統領の行政部と議会の立法部と最高裁判所の司法部の三権が分立しており,それらがお互いに抑制と均衡(checks and balances)を保っていることです。大統領と議会との関係でもお互いにチェック機能を働かせていますが,その中の一つに議会が大統領をやめさせる弾劾・解職権をもっていることがあげられます。大統領の弾劾と解職の手続については,憲法2条4項で「反逆罪,収賄罪またはその他の重罪および非行につき弾劾され,かつ有罪の判決を受けた場合は,その職を免ぜられる」と規定していますが,「重罪および非行」の定義についての規定はありません。手続は,まず下院が公聴会などを開いて弾劾にあたるかどうかを調査したあと,刑事訴訟手続の「起訴」に当たる「弾劾」を過半数の賛成で決議することになっています。それから上院で「裁判」が行われ,3分の2以上が「有罪」と判断すると解職が決まるのです。
 今回は下院本会議が弾劾調査開始を決議したあとに,中間選挙が行われ,民主党が善戦したことから弾劾調査に大きな影響がでました。下院で共和党が過半数を維持したので弾劾決議は可能ですが,上院では3分の2に達しなかったので解職決議は不可能になったのです。
 中間選挙というのは,4年に1回行われる大統領選挙とその次の大統領選挙のちょうど中間に行われる選挙のことです。上院は100の議席からなっており議員の任期は6年で,2年ごとに3分の1が改選され、下院は435議席からなっており議員の任期は2年で選挙ごとに総入れ替えになります。今回の中間選挙では,上下両院とも共和党が過半数を維持したものの,上院では共和党と民主党の議席は改選前と全く同じ,下院では民主党が議席を増やすという結果になりました。大統領の不倫問題で民主党には不利な選挙だといわれていましたが善戦したことになります。中間選挙前のアメリカのメディアの報道では,130紙を越える新聞が社説で大統領は辞職すべきだと主張し,テレビの記者や政治評論家もほとんどが大統領の辞職は避けられないという見通しを伝えていましたが,各種の世論調査の結果は,いずれも大統領の支持率は常に60%台を維持していましたし,中間選挙の結果もそれと同じ傾向を表わしたということができるでしょう。つまり,アメリカ国民の多数は不倫問題が政争の具になっていることにうんざりして早く政治を正常な姿に戻してほしいという意見を持っていたのです。

日米関係

 日米関係で重要なのは貿易・経済関係と安全保障体制です。日米の貿易収支では,1965年から30年以上にわたって日本の対米輸出が多すぎる状態で日本側の黒字が続いており,97年は,500億ドル台にもなっています。これをなんとか減らして貿易収支の不均衡を是正することが日米両国の懸案になっているのです。そのためにアメリカは日本に対して輸出を減らし輸入を増やすこと,市場が外国製品に対して閉鎖的なので市場を開放すること,政府の外国製品に対する規制がきびしすぎるので規制を緩和すること,消費者や企業がもっと物を買うよう内需を拡大することなどを要求しています。さらにアメリカは,日本の経済悪化はアメリカだけでなく世界に大きな影響を与えるので,不良債権の処理などを行って金融改革を断行し,景気をよくするために経済再生策をできるだけ早く実施に移すよう強く求めています。
 日米安保体制では,1997年に締結された新ガイドライン(日米防衛協力のための指針)をめぐる問題があります。これは,アメリカ軍と日本の自衛隊の間で,情報交換,合同演習など平素から行う協力,日本有事つまり日本が武力攻撃を受けた場合の対処行動,そして周辺事態つまり日本周辺地域で紛争が起こった場合の日米協力のあり方を定めたものです。とくに周辺事態では,アメリカ軍は実戦にあたり,日本の自衛隊は後方支援といって燃料,食糧などの輸送,補給,整備,衛生などの業務を行うことになっています。今日本政府は,新ガイドラインにあわせて国内法を改正したり新たに設けたりする作業を行っています。アメリカ政府は,その動きを見守っています。
 日米関係は,日本の外交・通商の中で最も重要な柱です。日本としては,日米の友好関係を維持しながら,グローバルな視点から日米関係を考えて日本の立場を主張すべきことははっきりと主張していくことが大事だと思います。(本稿は98年11月末日に執筆されたものです)

<玉川大学通信教育課程補助教材 玉川通信 99年1月号掲載>


国際問題をわかりやすく解説する(2)

ヨーロッパ編

 今ヨーロッパでは統合をめざす動きが進んでいます。その一環として,さる1月1日ヨーロッパ連合(EU=European Union)の通貨統合がスタートしました。そこで今月は,EUとはどういう組織でどんな歴史をたどってきたのか,通貨統合などヨーロッパ統合への動きは現在どういう形で進んでいるのか,こうした動きの中で日本としてはどうすべきかなどについて解説していきましょう。

EUの組織と歴史

 EUは,西ヨーロッパのほとんどの国が加盟している機構で,経済統合と政治統合をめざしています。現在加盟国は,ドイツ,フランス,イギリス,イタリア,ベルギー,オランダ,ルクセンブルグ,デンマーク,スウェーデン,フィンランド,アイルランド,オーストリア,スペイン,ポルトガル,ギリシャの15カ国です。
 1945年第2次世界大戦が終わり,1950年代にヨーロッパ石炭鉄鋼共同体,経済共同体,原子力共同体の3つの共同体がそれぞれ発足しました。67年にはこれら3つの共同体が一緒になってヨーロッパ共同体(EC=European Communities)を形成しました。93年1月ECは域内でヒト,モノ,カネ,サービスの移動が自由にできる市場統合を達成しました。これは,ECが一層結束することによって世界市場でアメリカや日本に対して国際競争力を強化することを目的としたものです。92年ECの加盟国がオランダの古都マーストリヒトで調印したヨーロッパ連合条約(マーストリヒト条約ともいわれています)が93年11月に発効し,ECはEUに変わりました。この条約は,共通の通貨を使う通貨統合と共通の外交・安全保障政策を行う政治統合をめざすことを定めています。

EUの通貨統合

 現在EUの中ではドイツはマルク,フランスはフランなどというように各国の通貨はばらばらで,仮に1万円を持ってEU15カ国を一周して各国通貨に両替するとその手数料だけで5000円もかかってしまうということですが,通貨統合が実現してユーロ(EURO)という単一通貨が使われるようになると両替の必要はなくなり手数料もいらなくなるというわけです。
 通貨統合は,まず今年の1月1日から銀行どうしの取引など金融・資本取引でスタートし,2002年1月1日からはユーロの紙幣や硬貨の流通が始まって一般の人たちが使えるようになり,同年6月30日には各国通貨の流通を停止してユーロを唯一の通貨に切り替えることになっています。通貨統合のスタート時点で参加したのは,EU加盟15カ国のうちの11カ国で,イギリス,デンマーク,スウェーデンの3カ国は,国内世論が通貨主権を国家からEUに譲り渡すことに消極的なことから当面参加を見送り,ギリシャは参加基準を満たすことができなかったため参加していません。しかし,これらの国々も通貨統合の最終段階までには参加するものとみられています。
 通貨統合への参加基準はきびしく,年間財政赤字額(国の歳出が歳入を上回った額)が国内総生産(=GDP 国の経済力を示す指標で,1年間に国内で生産された総額)の3%以内であること,政府の累積公的債務(国の借金の総額)がGDPの60%以内であること,過去1年間の消費者物価上昇率が加盟国中最低水準にある3カ国の平均よりも1.5%以上高くないこと,長期金利がEU域内でもっとも物価が安定している3カ国の平均よりも2%以上高くないことなどとなっています。
 今後の課題としては,参加国は参加基準を達成するためにこれまで財政赤字や公的債務の削減につとめ,行政改革や年金・失業手当ての削減などの社会福祉予算の切り下げを断行してきましたが,こうした緊縮財政を継続していかなければならないこと,10%を越える失業率を低く押さえるために思い切った公共投資の増額などの景気刺激策を打ち出さなければならないこと,税制が不均衡だと一部の国へ資本流出が加速されほかの国の歳入に影響がでてくるので調和していかなければならないことなどがあげられます。
 ユーロの誕生は,世界の中でどういう意義があるのでしょうか。ユーロランドと呼ばれているユーロ圏11カ国と日米の人口とGDPを比較してみましょう。人口は,ユーロ圏が2億9000万人,アメリカが2億6000万人,日本が1億3000万人,GDPは,ユーロ圏が6兆9000億ドル,アメリカが7兆3000億ドル,日本が4兆6000億ドルになっており,ユーロ圏が人口でトップ,GDPでもトップのアメリカに迫る勢いです。
 現在国際通貨体制ではアメリカのドルが圧倒的に強く,各国が国際決済用にためている外貨準備の56%,貿易決済の48%にドルが使われています。ユーロの誕生は,こうしたドルへの挑戦でもあるのです。EUと関係の深い東ヨーロッパやアフリカ,さらには中国などの国々もユーロを使うようになり,ユーロはドルに迫る基軸通貨になるものとみられています。

EUの拡大

 EUは,1997年アムステルダム条約に調印しました。これは,マーストリヒト条約を改正したもので,将来の東ヨーロッパなどへの拡大に備えて,共通の外交・安全保障政策の決定でこれまでの全会一致方式を改め特定の国の棄権が全体の採決を妨げないようにしたり,意欲のある国だけで統合を進めることができるようなやり方を定めています。
 EUは,昨年からポーランド,チェコ,ハンガリー,スロベニア,エストニア,キプロスの6カ国とこれらの国々の新規加盟についての交渉を行っています。EUは,加盟基準として,民主主義や人権,少数民族の保護を保障する体制を持っていること,市場経済が維持され競争に対応できること,EUのメンバーとしての義務を果たす能力があることなどをあげています。
 しかし,現在の段階ではとくに経済的基準を満たしている国が少なく,国によっては交渉が長引く可能性があります。実際に交渉が妥結して加盟が実現するのは,早くて2002年ごろになるものとみられています。
 新規加盟交渉の対象国6カ国のうち,ポーランド,チェコ,ハンガリーの3カ国は,また,NATO(北大西洋条約機構)が創設50周年を迎えるこの4月にNATOに正式加盟することになっています。NATOは,冷戦時代にアメリカを中心とした軍事機構としてソ連が率いていたワルシャワ条約機構(WTO)と対峙していましたが,WTOが91年にソ連の消滅に先立って解体してからは唯一の強力な機構として存続しています。WTOに属していた東ヨーロッパの国々や旧ソ連の共和国だった国々は,いっせいに自国の安全保障を確保するためにNATOに加盟を希望しています。
 このように東ヨーロッパなどの国々は,経済の面ではEU加盟を,安全保障の面ではNATO加盟を希望しており,参加基準さえ満たされればその希望が実現する可能性があります。加盟には解決しなければならない多くの課題がありますが,少しずつヨーロッパの統合へと動いていることは確かです。こうした中で,フランスなどのように,安全保障の面でもアメリカを除いてヨーロッパだけでまとまるべきだと主張する動きもあり注目されます。

日本の立場

 EUの通貨統合は,国家の枠組みを越えて通貨主権を共有するという歴史的な実験ということができます。それは,ヨーロッパの経済社会を大きく変えるだけでなく,ドル中心の国際通貨体制をドルとユーロの2極体制に変換させるものとみられています。
 かつて国際通貨体制は,ドル・マルク・円の3極体制になるとまでいわれたことがありますが,近年円は外貨準備でのシェアが低下し利用度が落ちてきており,最近のアジア通貨危機では防波堤になれない状態でした。これは,日本経済の長期的な低迷や金融システムの不安などから円の国際的な地位が相対的に低下したためです。
 日本としては,円の信用を取り戻すために,景気回復や不良債権処理など金融改革の断行,さらには短期金融市場の整備などを通じて円を使いやすい通貨にする円の国際化を推進していく必要があると思います。(本稿は98年12月末日に執筆されたものです)

<玉川大学通信教育課程補助教材 玉川通信 99年2月号掲載>


国際問題をわかりやすく解説する(3)

アジア編

 「日本はアジアの一員だ」とよくいわれますが,わたしたち日本人は,本当にアジアのことをよく知っているでしょうか。「アメリカの大統領は誰?」と聞かれれば恐らく誰もが答えられると思いますが,「それでは中国のトップのリーダーは誰?」「北朝鮮は?」「韓国は?」などと聞かれても誰もが答えられるというわけにはいかないでしょう。毎日日本のテレビや新聞のニュースをみていても国際ニュースはアメリカ関係のニュースに偏りアジアのニュースは極めて少ないのが実情です。しかし,日本の近くに存在するアジアの国々の動きをよく理解しておくことは,国際情勢を把握する上で,さらには今後の日本のあり方を考える上で大変大切なことだと思います。そこで今月は,アジアの主な動きと日本との関係をみてみましょう。

アジア地域の特徴

 アジアとは,一般的にいって,日本,韓国、北朝鮮,中国,モンゴル,ベトナム、カンボジア,ラオス,ミャンマー(ビルマ),タイ,インドネシア,フィリピン,マレーシア,ブルネイ,シンガポール,ネパール,ブータン,バングラデシュ,インド,スリランカ,パキスタン,アフガニスタンなどの国々が存在する地域をさします。
 アジア地域の第一の特徴は,政治,経済,社会,文化,宗教,言語,民族などの面で極めて多様性に富んでいることです。例えば,政治的には,中国,北朝鮮,ベトナムなどは社会主義国家ですし,そのほかの国の中には民主化の進んでいる国もあれば,まだ軍が実権を握っていて民主国家とはいいがたい国もあります。経済的には,日本のような経済大国もあれば,シンガポール,韓国,台湾,香港などのように工業化が進んだ国や地域もありますが,まだまだ開発の遅れている国もいくつか存在するなど経済発展の段階がまちまちです。宗教的には,タイ,ミャンマーなどのように仏教徒の多い国,インドネシア,マレーシア,ブルネイ,バングラデシュ,パキスタンなどのようにイスラム教徒の多い国,フィリピンのようにカトリック教徒の多い国,インドなどのようにヒンズー教徒の多い国などがあります。注意しなければならないのは,宗教が違うだけでなく,それに基づいた考え方,行動,生活習慣,伝統など社会・文化全般にわたって違いが存在し,それが政治的対立にまで発展する場合もあることです。
 アジア地域の第二の特徴は,冷戦が終わって10年が経過したにもかかわらず,不安定,不確実な情勢が続いていることです。例えば,韓国と北朝鮮や中国と台湾の対立,南シナ海のスプラトリー諸島(中国名では南沙諸島)をめぐる関係国の領有権争い,インドとパキスタンの対立などがありますし,インドネシア,マレーシア,ミャンマーなどの国内情勢は政府と反政府グループの対立があって流動的ですし,北朝鮮の国内情勢は不確実なところがあリます。

アジアの経済成長

 アジアは,1997年と98年,通貨危機から端を発した経済危機に見舞われました。97年7月タイの通貨バーツの価値が大幅に下落し,それがほかのアジアの国々の通貨にも広がり,さらに株価も暴落し,アジアの経済だけでなく世界経済にも深刻な影響を与えました。まさに経済のグローバル化の現象です。
 1980年代後半から90年代前半にかけて,アジアは,急成長を遂げ「世界の成長センター」といわれていました。この間,特にアジアNIES(新興工業経済群)といわれる韓国,台湾,香港,シンガポールの4つの国と地域,タイ,マレーシア,インドネシア,フィリピンのASEAN(東南アジア諸国連合)の中の4カ国,それに中国は,実質経済成長率が平均して7〜10パーセントと驚異的な記録を実現したのです。この数字は,日本やアメリカの当時の成長率の2〜3倍にあたります。
 こうした経済成長をもたらした要因は,これら東アジアの国々が国内に大きな紛争をかかえておらず経済建設に打ち込むことができる環境にあったこと,日本の企業が円高や国内の高い賃金などの理由から東アジアの国々に工場などの設備を移転して現地生産し,そこから輸出したこと,こうした動きに加えて東アジアの人々や企業の強い工業化志向と海外資本技術の積極的な活用によって,工業化を推進し輸出を拡大していったことなどがあげられます。
 東アジアの国々は,工業製品を輸出しドルを中心にした外貨を獲得し,経済成長を見込んだ外国の投資家による大量の資本が流入して,資金が予想以上に膨らみました。そうした大量の資金が株や土地の購入に流れて,それらの価格が高騰しました。経済が実体よりもはるかに大きく泡(bubble)のように膨らむ,いわゆるバブル経済の状態になりました。

アジアの経済危機

 1990年代の後半に入り,それまでのドル安傾向からドルが反転上昇すると,ドルと連動していた東アジアの国々の通貨は,実質以上に跳ね上がって輸出製品の価格が高くなってしまい輸出は振るわず,経常収支は大幅な赤字になり,それらの国々の政府は,実質的に通貨の切り下げ措置をとらざるをえませんでした。通貨価値が下がったため,外国からの大量の債務額はさらに大きく膨らみ返済が難しい情勢になりました。バブル経済が崩壊したのです。こうした経済の実体を知っていた外国の投資家たちが,東アジアの国々の通貨を大量に売りに出たため,それらの通貨価値は下落し通貨危機が起こったのです。通貨危機は,タイに始まり,フィリピン,マレーシア,インドネシア,韓国などに広がり,さらに香港に株の暴落をもたらし,それが世界のほかの国々にも広がって世界同時株安になってしまいました。こうした動きは,東アジアの国々に経済危機をもたらし,タイやインドネシアでは経済政策の失敗の責任をとって政権が交代しました。
 国際通貨基金(IMF)は,タイ,インドネシア,韓国の3カ国に対して大規模な救済融資をすることを決め,融資条件として緊縮財政や金融システムの強化など構造改革を求めました。
 東アジアの国々は,政治家と企業の癒着,企業が銀行からの借り入れに依存している赤字体質,銀行が融資した金の回収が難しくなるいわゆる不良債権の処理のような金融体質の改善など危機を乗り切るために取り組まなければならない問題が山積しています。

日本への影響

 日本の経済とそのほかのアジアの国々の経済は相互依存関係にあり,日本のアジア向けの輸出と輸入は,それぞれ全体の約4割を占めています。したがって,アジアの経済危機が日本に与える影響は,大きいものがあります。
 まず第一に,アジアの国々が経済危機に陥ったことから日本のアジアへの輸出は減少しています。経済企画庁は,アジアの経済危機は日本の実質経済成長率を0.5%程度減速させる要因になるとみています。
 第二に,日本の銀行のアジア向けの債権額は1100億ドルを越えており,その一部は不良債権になる恐れがあり,そのため銀行の経営状態に影響がでてくることです。また,日本の商社や建設会社などもアジアの国々に多額の債権を抱えているので同じような懸念があります。
 一方,日本の景気低迷や円安の傾向が進むとアジアの国々の輸出に大きな影響がでてきます。そのため,アジアの国々は日本に対して経済の再生をできるだけ早く実現するよう強く求めています。
 最後に,日本とそのほかのアジアの国々の関係について今後のあり方を考えてみますと,現在はあまりにも貿易・経済関係が中心になっているので,情報・通信,教育,文化,人的交流などの分野でもこれまで以上に一層関係を進めていく必要があると思います。(本稿は99年1月末日に執筆されたものです)

通信教育を受けている方々へ
これまで3回にわたって国際問題について解説してきましたが,より一層理解を深めたい方は,今月玉川大学出版部から出版される私の編著『国際社会の動向と日本』を読んで頂ければ幸いです。この本は,情報・通信のグローバル化を中心にした国際関係論の概説書です。

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